腰痛療法選びに役立つ『疼痛閾値』という考え方

慢性的な腰痛に対する治療では、温めたり、マッサージしたりストレッチしたりといろいろな方法が行われています。他にも精神的にリラックスをしてストレスを取り除きましょうとアドバイスを受けたことがある人もいるかもしれません。

治したい症状はどれも「腰痛」なのに、まったく異なるように感じるアプローチが数多くあるのはどうしてなのでしょうか。たくさんある療法がなぜ痛みに効くのかということを簡単に理解しようとするとき、理解しやすいのが「疼痛閾値」という考え方です。痛みを数値化することでセルフケアにも役立つというこの考え方。覚えておくと、自分に合った療法選びに大いに役立ちます。

堤防が決壊すると腰痛になる

さて、突然出てきた「疼痛閾値」という聞きなれない言葉。一体なんのことなのでしょうか。


「疼痛閾値」というのは理学療法の世界で使われることが多い専門用語で、痛みを感じる刺激量の大きさを決める「堤防の高さ」のことだと考えるとわかりやすくなります。



普段、私たちは日常生活を送る中でさまざまな刺激を受けているはずです。たとえば皮膚に服がこすれることもあれば、誰かにポンと肩をたたかれることもあるでしょう。このぐらいの刺激ではほとんどの人は痛いとは感じません。これは流れる刺激の量が少ないので、堤防を乗り越えてあふれることがないからです。


ところが腕を壁にぶつけたり、グーで殴られたりするととたんに強い痛みを感じます。これは刺激の量が一気に増えて、堤防を乗り越えてしまった状態です。


このように私たちの体はすべての刺激に対して痛みを感じるのではなく、ある一定の線引きによって痛いと感じる刺激と僧でない刺激を選別しているのです。この刺激量を決めているのが「疼痛閾値」というわけです。


刺激に対する堤防の役割をしている「疼痛閾値」は、実はさまざまな要因によって常に高さが変動しています。たとえば、皮膚がただれてしまったときには、空気をふけつけたような小さな刺激でもジンジンと強い痛みを感じてしまいます。これは炎症が起きたことで敏感になり、疼痛閾値が大きく下がってしまったからです。


また、ストレスがたまったときや、うつ状態に陥ってしまったときにも疼痛閾値が下がり、痛みが増強してしまうことが知られています。逆に、何かに夢中になっているときにはアドレナリン等の作用によって疼痛閾値が上がり、痛みや不快感を感じにくくなることは皆さん感覚として知っていることでしょう。


ここまでの話から、腰痛などの慢性疼痛の悩みを解決するためには、痛みのもとになる刺激の量を減らすか、堤防である疼痛閾値を高めればいいということになることを理解していただけるのではないでしょうか。



慢性腰痛対策では疼痛閾値のコントロールが重要

腰痛へのアプローチとして取られている療法は、刺激の量そのものを減らすものと、疼痛閾値を高めようというものに分けられます。それぞれどのような仕組みで痛みに対してアプローチしているのかを少し詳しく見てみましょう。


まず、腰痛とは直接関係がなさそうに見えるストレスコントロールについてですが、これは前出したようにストレスがかかり続けることで精神的に抑うつ状態となり、疼痛閾値が低下してしまうことを防ぐための対策です。


強いストレスがかかると、短期的にはアドレナリンを分泌させて痛みに対して鈍感になりますが、長く続くと今度は逆に慢性痛の要因となってしまうことが知られています。最近では心因性腰痛といって、精神的な問題が治らない腰痛に深く関係しているということも解き明かされています。(『ストレスにより痛みが増強する脳メカニズム』日本緩和医療薬学雑誌など)


一方、お風呂に使ったり治療機器で温めたりする温熱療法では、血行やリンパの流れが改善され、十分な酸素が供給されることで新陳代謝が促進して老廃物の除去が行われれるという順序を経て痛みへの感受性を下げているという説明が一般的になされます。(医療機器の基礎知識 第2版)実は腰を温める必要はなく、手や足を温めるだけでも全身の血行は促進されるので疼痛閾値が上がります。病院などでは全身浴ができない患者は足浴を行ったりすることもあります。(『手浴が実験的疼痛閾値に及ぼす影響』川崎医療福祉学会誌など)


また、マッサージやストレッチでは血行を改善させる他、筋肉に対して刺激を与えることで痛みに対しての感受性を下げ、腰痛を感じにくくしています。


 


このように、温浴・マッサージといった代表的な代替療法は、疼痛閾値をコントロールする方法であることがわかります。慢性腰痛の場合、ほとんどのケースで痛みの原因となっている要因が検査をしてもよくわからない「非特異性腰痛」だといわれています。病院で検査をしても、年相応の変化や、痛みと直接関係がないと思われる変化ぐらいしか見つけることができないのです。


それにも関わらず多くの人がつらい腰痛に悩まされ続ける原因には、痛みを感じていること自体が強いストレスとなって、疼痛閾値が低下してしまっているケースがたくさんあると考えられています。慢性腰痛対策では、低くなってしまった堤防をかさ上げするための療法が必要なのです。


なるべく長続きする方法を見つけましょう

ただ、残念ながら温浴やマッサージといった方法は、永久に疼痛閾値を高めることはできず、すぐにまた元に戻ってしまいます。しかし、それぞれの方法の効果の大きさや持続時間は人によって大きく異なるため、自分にとって一番効果がある方法を選ぶことが大切です。


疼痛閾値を上げる方法の例



リンクはそれぞれの詳細について解説しているページ(サイト内リンク)


このように、疼痛を軽減させる方法はさまざまなものが知られています。別に大層な名前がついていなくても、ちょっと好きなことをしたり、外を散歩してリラックスしたりといったことも痛みを抑える手段としては有効なことがあります。いろいろと試してみた上で、もっとも効果を感じたものを長く続けて、疼痛閾値とうまく付き合っていくことが慢性腰痛へのいい対処法なのです。


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