腰痛チェアの決定版となるか?「座る」の概念を覆す高機能チェア『ing』発売
2017年11月、オフィス用品大手のコクヨは、座りながら運動することができる新しいオフィスチェア『ing』を発表しました。
最大の特徴は座面下に取り付けられ、体の動きに合わせて360度動かすことができる「グライディング・メカ」。
まるでバランスボールに乗っているかのような自由な動きをすることができ、高機能性オフィスチェア市場に新たな選択肢が加わることになりそうです。
(参考:商品詳細)コクヨing公式HP
デスクワークを「止まる」から「動く」に
日本人の平均睡眠時間は7時間半程度で、実に一日の31%をベッドの上で過ごしていることになります。
人生の3分の1を過ごすベッドの機能性について敏感になっている人が増加していることは、近年の高性能マットレスブームを見ても明らかです。
この睡眠と匹敵するか、それ以上の時間を過ごしている場所があると言ったらあなたはどう思うでしょうか。
早稲田大学のスポーツ科学学術院によると、日本人の総座位時間は8時間から9時間程度もあり、世界的に見てもトップクラスに長いということが明らかになっています。
座っている時間が長すぎることがさまざまな健康リスクを高めてしまうという研究結果もあり、最近では北欧発の『スタンディングチェア』など、従来のデスクワークの形式に縛られない新しい働き方が注目を集めつつあります。
働く環境を改善する機運が高まっている中、2017年11月にコクヨが発表したのが、まったく新しい発想で設計されたオフィスチェア『ing』。
「人の体は、動くために設計されている」という椅子のものとしては似つかわしくないキャッチコピーに表れているように、最大の特徴は座るという動作を「止まる」から「動く」に変えること。
座面の下に取り付けられた「グライディング・メカ」が360度ゆれることで、体の動きに追従するように、前後、左右、そして斜め方向への動きまで細かく対応することができます。
常に座面がスイングすることで、(1)体にかかる圧力がバランスよく分散され、(2)どんな姿勢のときでも自然なS字カーブをサポートし、(3)どんな体格や体重でもレバー操作なしで柔軟に対応できる(参考:公式ホームページ)としていて、独特の座り心地は「座っている」というよりもむしろバランスボールや動物などに「乗っている」感覚に近いようです。
座っているだけの姿勢が疲れを招く
そもそもなぜ座っているだけで多くの人は疲れを感じてしまうのでしょうか。
疲労の原因には諸説ありますが、最近注目されているものでは、座っている時間が長すぎると、人体にある筋肉量の7割を占める脚の筋肉が動かないばかりか、股関節周辺は圧迫された上体が続き、たちまち血流が滞りやすくなってしまうからだと説明されます。
長距離移動で起こり、ときには命の危機にまで直結するエコノミークラス症候群(旅行者血栓症)。
座り続けることで血流が滞り、深部静脈に血栓ができることが引き金となることが知られています。
ごく一部の人にしか現れない症状だと思われがちですが、実は無症状であっても乗客の10%には血栓ができるという報告(※1)もあり、座位による血流悪化リスクは無視できないほど大きなものだといえます。
たとえ血栓ができてエコノミークラス症候群にまで発展しなくとも、血液の流れが悪い状態が続くと代謝が滞り、疲労の蓄積はもちろん、糖尿病、高血圧、脳梗塞、がん、うつ病などさまざまな病気のリスクを引き上げてしまうことが報告されるようになってきました。
これらのリスクは、30分以上動かずに座り続けるだけでぐっと高まることもわかっています。
逆に言うと、30分に一度は必ず立ち上がって体を動かすことができれば、終業時に感じる疲労度は大きく改善されているでしょう。
また、貧乏ゆすりも脚を動かす運動して役立っているという報告(※2)もあります。
このように、一度座ったら長時間体を固定してしまうのではなく、できるかぎり小まめに体を動かせる環境におくことが非常に重要だと考えられるようになってきているのです。
※1 Scurr JH, Machin SJ, Bailey-King S, Mackie IJ, McDonald S, and Smith PD. Frequency
and prevention of symptomless deep-vein thrombosis in long-haul flights: a randomised
trial. Lancet 357: 1485-1489, 2001.
※2 Hagger-Johnson G,et al. Sitting Time, Fidgeting, and All-Cause Mortality in the UK Women’s Cohort Study. Am J Prev Med. 2016;50(2):154-60.
「乗って」体が活性化
欧陽修という北宋の偉人によると、文章を練るために最も良い場所として「馬上」「枕上」「厠上」の三上を挙げています。
馬上は現代でいうと「バイク上」といったところとなるのでしょうが、机にかじりついているよりも、騎乗し体を動かしたほうがいいアイディアを得られるのではという予感は想像に難くありません。
実際に『ing』を使った実験では、20人中7割の人の脳でリラックスした状態を示すα波が、6割の人の脳で能動的・活発な思考の状態を示すβ波が増加していたとしています。
さらに50人を対象に行われた創造性のテスト(AUT)では、創造的で有用なアイディアの発想数が13%増加したという結果を得たとしています。
また、慶應義塾大学スポーツ医学研究センターとの共同実験では、自然にingに座っているだけで10人中8割の人の肩の筋肉が、5割の人の腰の筋肉が従来品に比べて活動していることが確認され、デスクワークにつき物の肩こりや腰痛の軽減につながることが期待できます。
(ここまでの実験結果についてはコクヨ公式HP参照)
注目の『ing』、価格は88,000円から。
高機能オフィスチェアとしては高価というわけではありません。
コクヨのショールームや渋谷ヒカリエ内にあるコワーキングスペースで体験できます。
この機会にまったく新しい椅子を体験してみてはどうでしょうか。
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